ISO 9001 規格改訂情報
2025年8月27日、DIS(国際規格原案)がコメント受付を目的に発行されました。
今後、各国から寄せられるコメントをもとに検討され、必要な変更が加えられる予定です。
なお、この情報は、DISと現行のISO9001:2015との差分を当社独自に整理・邦訳したものです。
あくまでも参考情報としてお取り扱いいただき、正式な対応にあたっては、
必ず最終的に発行されるIS版をご確認くださいますようお願いいたします。
規格改訂のポイント(DISより)
新たに要求追加されるもの
気候変動への対応
ISO9001:2025(DIS)4.1「組織及びその状況の理解」 『組織は、気候変動が関連課題であるかどうかを決定しなければならない。』QMSにおいても環境への影響や持続可能な運営方針を考慮する要求が強調され、CO₂削減、資源効率、循環型経済の推進などへの配慮が求められると予測される。
★目的・背景
気候変動やSDGsへの国際的合意に対応するため。組織には品質だけでなく「社会的責任」を含めた価値提供が求められているなかで、特に気候変動の影響が重要視されたものだと考えられる。
倫理・インテグリティの導入
ISO9001:2025(DIS)5.1.1「リーダーシップ及びコミットメント」 『倫理的行動は品質文化の一部であり、品質マネジメントシステムを支援するリーダーシップの基本である。』品質データ改ざんやコンプライアンス違反防止のため、倫理に関する方針が明文化され組織文化に統合されることが予測される。
★目的・背景相次ぐ不祥事(検査データ改ざん、品質偽装等)により世界的に信頼が損なわれている現状を受け、「品質=信頼の証」という原点回帰が必要だと判断されたとものと考えられる。
サステナビリティへの対応
ISO9001:2025(DIS)A.4.2 補足「利害関係者のニーズ及び期待」 『持続可能性やその他の外部要求に関する期待は、顧客やその他の利害関係者から表明され得る。』サステナビリティなど広範な利害関係者要求が含まれるようになり、ESGや社会的要請も品質マネジメントの枠組みに組み込まれていく方向性が予測される。
★目的・背景
社会的責任(CSR/ESG)やサステナビリティが企業経営において必須要素になりつつある。利害関係者の範囲を広げることで、組織の信頼性や透明性を強化するべきであると判断されたと考えられる。
拡張されるもの
リスクと機会の明確な区分と対応
ISO9001:2025(DIS)6.1「リスク及び機会への取組み」 A.4.4『プロセスアプローチは、PDCAサイクルとリスク思考および機会思考を組み込む。』2015年版では「リスク及び機会を考慮する」と緩やかな表現にとどまっていたが、リスク(負の影響)と機会(正の影響)を明確に区別し、アプローチ方法が体系化されることが予測される。
★目的・背景
不確実性が高まる時代において、受け身の「リスク回避/低減」だけでなく積極的に「機会を掴む」ことが企業の競争力を左右する要因であると判断されたと考えられる。
心理的要因とデジタル化への対応
ISO9001:2025(DIS)7.1.4「プロセスの運用に関する環境」 A.7.1.4『組織は、外部・内部環境に起因するリスクや機会、関連する変化を考慮して、マネジメントレビューの間隔を決定する。』2015年版もレビュー要求はあったが、2025年版では「外部環境変化・利害関係者期待」が明確にレビュー対象として示され、より戦略的なレビュー色が強まると予測される。
★目的・背景
デジタル化、特に生成AIの進展が加速する時代においても、組織の行動原則と倫理責任、そして説明責任に基づくことが重要であると判断されたと考えられる。
外部要因レビュー
ISO9001:2025(DIS)9.3「マネジメントレビュー」 A.9.3『組織は、外部・内部環境に起因するリスクや機会、関連する変化を考慮して、マネジメントレビューの間隔を決定する。』2025年版では「外部環境変化・利害関係者期待」をレビュー対象として明確化され、戦略的レビュー色が強まることが予測される。
★目的・背景
倫理やサステナビリティへの対応が強化されたことを受け、外部要因レビューの柔軟な周期を設定し、外部環境の変化を常時監視しつつ、顧客・従業員・社会の声を統合して評価する必要があると判断されたと考えられる。
AI等の先端技術の導入、デジタル化
ISO9001:2025(DIS)10.1「継続的改善」 A.10.1『新興技術の活用は、継続的改善を促進し、品質マネジメントシステムに影響を与える。』2025年版では「デジタル化」や「新興技術」の活用」を改善活動に取り入れることが推奨されると予測される。
★目的・背景
気候変動や技術革新といった外部要因の急速な変化に即応し、多様な利害関係者の期待に応えるため、品質マネジメントを経営戦略の一部へ統合する必要があると判断されたと考えられる。
是正処置の柔軟な対応
ISO9001:2025(DIS)10.2「不適合及び是正処置」 A.10.2『全ての不適合に是正処置を取ることは必須ではない。根本原因分析を必ず実施する必要もない。組織が選択(リスクに応じ)する。』2015年版では「不適合発生時には修正処置、そして是正処置の必要性を評価し実施」とされていたが、誤解が多く2025年版ではこの点が柔軟化され、リスクの重大性に応じて対応を判断することがより明確に示されると予測される。
★目的・背景
マネジメントシステムの活動は、リスク思考で物事を判断することが前提となっている。しかし「念のため何でもやっておけば大丈夫」といった発想が根強く、特に改善において業務効率を大きく損なっていると判断されたと考えられる。
DISの情報から判断すると、今回の規格改訂では「サステナビリティ・持続可能性」「デジタル化」「レジリエンス・倫理」などの強化が主な焦点であると考えられます。
ISO 9001 改訂情報 2025年10月28日更新 Rev02
この情報は、DISと現行のISO9001:2015との差分を当社独自に整理・邦訳したものです。あくまでも参考情報としてお取り扱いいただき、正式な対応にあたっては、最終的に発行されるIS版を必ずご確認くださいますようお願いいたします。
ISO 9001:2026 規格改訂情報(DISより)
拡張されるもの
ISO 9001:2026改訂の方向性(DISより)
ISO 9001改訂(DIS)の方向性としては、従来の品質マネジメントの枠組みをさらに発展させ、「経営・社会・倫理・技術」を統合した、より包括的なマネジメントシステムへの進化が進められています。
■リーダーシップ条項に「品質文化」と「倫理的行動」が追加
→ 組織全体で信頼される品質文化を築くことが求められます。
■Annex(附属書)で「新興技術」「心理的要因」「サステナビリティ」を強調
→ デジタル化や持続可能性を含む、幅広い観点からの品質マネジメントが推奨されます。
■「リスクと機会」「利害関係者の期待」「外部環境(気候変動を含む)」を経営判断に反映
→ 品質マネジメント活動が経営戦略とより一体化する方向です。
ISO 14001が環境保護や法令遵守を中心としているのに対し、ISO 9001:2025(DIS)では、サステナビリティ(持続可能性)・コンプライアンス(法令遵守)・AIやデジタル化・倫理的行動といった要素が正式に組み込まれ、組織の「社会的信頼」と「説明責任」が重視されています。
今回の改訂の意義
本改訂は、従来の「品質保証」からさらに一歩進み、「責任ある経営」「持続可能な品質」「信頼に基づく組織文化」の実現を目指す大きな転換点となる重要な改訂となります。新たな方向性を正しく理解し、マネジメントにどう活かすかが、組織の今後の競争力を左右するでしょう。
規格改訂の歴史
| 発行/予定 | 背景・狙い(ISO要旨) | 主な改訂ポイント(ISO公表の範囲) |
| 1987年 (発行) | ISO 9000ファミリーの出発点。 | 初版公表。 以後の改訂の基礎となるモデルを提示。 |
| 1994年 (改訂) | 9001/9002/9003 モデルを維持。 | モデル規格の維持・整備。 |
| 2000年 (大幅改訂) | プロセスアプローチを導入、 単一規格に統合。 | 9001/9002/9003を統合し単一規格へ。 顧客満足・継続的改善を明確化。 |
| 2008年 (改訂) | 2000年版の明確化、ISO 14001との整合性向上。 | 要求事項は維持。用語や記述の明確化。 |
| 2015年 (大幅改訂) | デジタル化・サービス化など 環境変化に対応。 | Annex SL構造、リスクベース思考、PDCA全社適用、リーダーシップ強化、文書化情報。 |
| 2026年9月 予定 | WG29で改訂進行中。 36カ月スケジュールでDIS→FDIS→発行へ。 | 詳細は審議中。持続可能性・デジタル化・ レジリエンス・倫理などの強化が焦点と予想。 |